皆さんは牛乳を飲んでお腹が緩くなったり下痢になったりとお腹を壊した経験はないでしょうか。
今でこそ、学校ではアレルギーなどの食べられないものを避けられるようになりましたが、昔は無理にでも食べさせられたものです。
そして、現在では牛乳などの乳製品において、乳糖という成分を分解しきれない人が一定数いて、特に日本人の場合はそのような人が多いことがわかってきました。
これらの症状のことを”乳糖不耐症”あるいは”乳糖不耐性”と呼び、この症状を持つ人たちは乳糖を分解できないため腸の活動に影響を与えてお腹を壊して下痢になったりと様々な生体反応が出ます。
では、なぜ牛乳を始めとした乳製品でお腹を壊すのかみていきましょう。
乳糖とは
乳糖とは、牛乳や乳製品に含まれている糖分の一種です。
乳糖が体に入ると、小腸の細胞で作られるラクターゼという消化酵素によってブドウ糖とガラクトースという糖分に分解されます。
この2つの糖分は腸から吸収されてブドウ糖は主に脳や筋肉でエネルギーとして働き、ガラクトースも同様ですが一部は脳神経系を構成する成分としても大切な役割となります。
乳糖はこのようにして体内で主にエネルギーを作る物質として存在します。
乳糖を分解するラクターゼ
ラクターゼは小腸の細胞で作られています。
本来はラクターゼが作られる量が十分量あれば何も問題は起きません。
しかしながら現時点で分かっていることは、北西欧系の白人の80〜85%は生涯に渡りラクターゼの産生量が保たれる一方、黒人とヒスパニックの80%、アジア人の90%以上の人たちが離乳した後に徐々に量が減っていくことが判明しています。このことが、一昔前によく言われた日本人は胃腸が弱いということにも繋がっていると考えられます。
ラクターゼについて
ラクターゼの役割は乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解して、腸から吸収して体内でエネルギー源として活用できるようにすることです。
これは乳糖のままでは吸収ができないために、ラクターゼによって分解しています。
では乳糖以外の糖分であるショ糖(いわゆる砂糖)も同じなのかというと、一部を除いて理論は同じです。砂糖も乳糖と同じ糖分のため、ブドウ糖とフルクトースに分解されて、腸から吸収して体内でエネルギー源として活用されています。
しかしながら、この分解の部分で乳糖とショ糖(砂糖)は大きく異なります。
ショ糖はブドウ糖とフルクトースがα結合という状態でくっついていますが、この結合は簡単にしか結びついていないので分解するのは容易です。
一方、乳糖の場合はβ結合という状態でくっついています。この結合はかなりしっかりと結合しているため、分解するためには専用の酵素が必要になります。この専用の酵素こそがラクターゼです。
では、なぜこのような役割を果たしているにも関わらず離乳後から量が減っていくのでしょうか。
ラクターゼはなぜ減少していくのか
これは結論から言うと必要性がなくなるからです。
離乳後から、というポイントがミソなのですが、赤ちゃんの時の栄養源は母乳がメインです。母乳には乳糖が多く含まれていて、乳糖は先述した通り分解するためには専用の酵素であるラクターゼがないと分解できないために栄養として取り込めません。
だから授乳時にはラクターゼがたくさん作られています。
しかしながら離乳をしたら、食事から糖分を十分に摂ることができるようになります。
また、普通に生活していれば乳糖よりもショ糖の摂取量の方がはるかに上回ります。
そのため、今までは栄養の摂取に母乳の乳糖に頼っていたものがそれに頼る必要がなくなるので、乳糖を分解するラクターゼも同時に不要になっていきます。そして、乳糖が作られなくなる、あるいは微量しか作られなくなり乳糖不耐症や乳糖不耐性という状態になるのです。
(しかしながら、この原理によれば人種間でラクターゼの量が違うのはおかしいことですので、未だ解明されていない部分もあります。)
乳糖不耐症の症状
乳糖不耐症の人が牛乳や乳製品を摂ることで起こる主な症状はこちらです。
下痢
下痢になる理由としては乳糖の浸透圧と関係があります。
浸透圧とは水分が移動する際に起こる力のことでありますが、簡単にいえば高い方へ水が引っ張られる減少です。浸透圧が低い方から高い方に力が働きます。
本来は食べ物は胃で消化されてから小腸へ送られて、小腸では必要な栄養素を吸収して体内へ取り込み、大腸では主に必要分の水分を取り込んで、食べ物の残り物は結果的に適度に固形化されて便となり排出されます。
ただ、乳糖は浸透圧が高いため、ラクターゼによって分解できない乳糖が腸内に留まって本来は吸収されるはずの水分が逆に便の方へ吸収されてしまい、便が固まらずに緩くなってしまって下痢となってしまいます。
浸透圧の関係で便が固まらないため下痢になる。
お腹の張り感や腹痛
私たちの大腸の中には善玉、悪玉を含めた多くの細菌が棲んでいます。
それらの菌が食物の分解を進めて有機酸というものを作って栄養として利用したりしますが反面、酸ということで当然ながら酸性の性質も持ち併せているため、その性質によって腸が刺激されて腹痛の要因にもなり得ます。
また、本来は小腸のラクターゼで分解されずはずの乳糖が分解されずにそのまま大腸へ入ってくると腸内細菌によって分解や代謝を行う量自体が、既に小腸で分解されて吸収される場合に比べてとても多くなり、大腸内で細菌によって分解する過程ではメタンや水素などのガスになる成分が同時に作られるために、多くのガスが作られてお腹が張る感じになりますし、それが腸を刺激して腹痛にも繋がります。
腸内細菌によって分解されるときに発生する大量のガスで張り感や腹痛になる。
まとめ
乳糖不耐症や乳糖不耐性についてお話ししましたが、いかがだったでしょうか。
今まで牛乳や乳製品を摂るとすぐにお腹が緩くなったり下痢をしたりして困っていた人は、このような仕組みが働いていると思うと多少は仕方がない部分もあるのではないでしょうか。
無論、日本人はアジア人の一種のため90%以上の人たちが乳糖を分解するラクターゼが大人になると分泌されない、あるいは活性が鈍くなると言われていますので、身の回りでもそれなりに牛乳や乳製品によってお腹を壊す人がいるのではないでしょうか。
ただ、もちろんしっかりとラクターゼが作られている人もいますし、牛乳や乳製品が全く摂れないという訳ではなく、乳糖不耐症の人が乳糖を摂りすぎると影響が出るということなので、自分が問題ない量であれば栄養価もありますので摂取しても問題ないでしょう。
要は自分に見合った量を探して、それ以上摂るとお腹に様々な影響が出るということを知っておくことが大切ですね。
※ちなみに、乳糖不耐症での症状と牛乳アレルギーとはまた別の話になります。アレルギーについてはまた別の機会でお話しします。